研究概要 |
cDNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析技術は、組織や細胞の大量の遺伝子発現を網羅的に体系的に解析することが可能な手法として近年注目されており、臨床病理学的解析と組み合わせることにより診断、治療方針の決定、予後判定などで大きく寄与するものと考えられる。そこで食道扁平上皮癌についてcDNAマイクロアレイを施行した。更に食道扁平上皮癌における接着分子ファミリーの発現と臨床病理学的因子との相関性を検討した。 【結果】1.術前未治療のT2以上の進行食道癌11例についてInteliGen Human Cancer Chip Version 3.0 (TaKaRa Shuzo)を用いcDNAマイクロアレイによる遺伝子解析を行った。リンパ節転移の有無によるクラスタリング解析では優位な結果は得られなかったが、リンパ節転移個数により症例を3群に分類するとそれぞれの群において発現パターンが有意に異なる遺伝子を検出した(cut-off:>3.0,<0.33)。特に高転移群(5個以上)では低転移群(1-4個)及び非転移群の2群より、細胞接着関連遺伝子や細胞増殖関連遺伝子などが高発現している傾向がみられた。 2.術前未治療食道扁平上皮癌71症例(リンパ節転移症例32、総転移個数153)を対象に、接着分子(E-cadherin、β-catenin、CD44、CD44-v6、integrinβ1)の発現と臨床病理学的因子との相関性を検討した。(1)原発巣における発現について、E-cadherin、β-catenin、CD44-v6はリンパ管・静脈侵襲陽性例において、E-cadherin、β-cateninは深達度とリンパ節転移陽性例において、E-cadherinは浸潤形態の増悪と再発例において有意な発現低下を認めた(有意差p<0.05)。5年生存率はE-cadherin、β-catenin、CD44-v6の発現減弱群において有意に低下していた。腫瘍原発部における接着分子の発現減弱は癌細胞の浸潤・転移に関与し予後不良因子であった。(2)転移リンパ節における発現について、リンパ節転移の範囲では各接着分子の発現に有意な傾向を認めなかった。しかし転移リンパ節個数の増加に伴いE-cadherin、β-catenin及びCD44-v6の発現は有意に減弱し、CD44、integrinβ1も発現が減弱する傾向にあった。食道扁平上皮癌において転移リンパ節個数の増加は予後不良因子と考えられており、転移リンパ節を含めた接着分子の発現は予後予測因子の一つと考えられた。
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