MALTリンパ腫の発生機序については、近年、病因遺伝子AP12-MALT1やBCL10が報告され、apoptosisに関連した腫瘍発生進展の分子機序研究が進展しつつある。しかし、これらの遺伝子異常の頻度は、発生臓器によって大きく異なることから、本腫瘍には発生進展分子機序の異なる亜型の存在が推測される。昨年度までの検索から、MALTリンパ腫には発生臓器による組織像の特性が見られ、形態学的にやや異なったMALTリンパ腫亜型の存在が示唆された。そこで、本年度研究では、各種臓器に発生したMALTリンパ腫症例において、遺伝子異常と発生臓器及び組織像との相関を検討した。新鮮凍結検体からRNAを抽出し得た一部症例において、multiple RT-PCR法によりAP12-MALT1キメラ遺伝子を検出すると共に、免疫組織染色法により組織標本上でのBCL10蛋白発現を検索した。63例の検索結果をまとめると、(1)AP12-MALT1(+)症例は8例で、胃(5)、結腸(1)、結腸+胃(1)、肺+胃(1)であった。組織像は、典型的なcentrocyte-like cellから構成されlarge cell混在の乏しいmonotonous typeが多く、胃病変においてこの傾向は明らかである。細胞質のclearないわゆるmonocytoid B-cellの出現が認められ、また、20%に多臓器進展が見られた。(2)BCL10核(+)症例は15例で、(1)症例は全て含まれた。発生臓器は胃、結腸、肺、唾液腺、結膜であった。(3)BCL10核・細胞質(+)症例は41例で、胃、結腸、肺、唾液腺、甲状腺、皮膚、子宮、乳腺、胸腺であった。組織像は、発生臓器により腫瘍細胞の形態はやや異なるが、比較的large cell混在が目立つpolymorphic typeの像であった。 来年度は、さらに多数症例の遺伝子検索をすると共に、発生機序、組織像、臨床病態を含めた疾患概念としてのMALTリンパ腫亜型について検討したい。
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