β-カテニン蓄積変異巣(BCAC)は、ラット大腸発癌モデルを用いた化学予防物質の検索において有用なバイオマーカーであるが、BCACの検出は組織標本作製を要するため、煩雑である。今回、これらの問題点を解消すべく、腫瘍性病変でのムチン、ムコ蛋白質の変化に注目して、High-iron diamine alcian blue (HID+AB) pH2.5染色およびAB pH1.0単独染色を用いて検討した。HID+AB pH2.5染色による陰性病変巣は、従来の方法にて検出したBCACと同一病変巣を従来利用されている大腸変異陰窩病巣(aberrant crypt foci)よりも有意に含まれており、特に4個以上のcryptからなるHID+AB pH2.5染色陰性病変巣とBCACとの一致率は高かった。従って、4個以上のcryptからなる陰性病変巣がBCACの代用となりうると思われた。しかしながら、HID+AB pH2.5染色は大腸近位側におけるBCACの検出が解剖学的特徴及びHID+AB pH2.5染色の染色性の面から困難であり、HID+A pH2.B染色同様にスルホムチン及びシアロムチンを同時に短時間に染出すことが可能なAB pH1.0単独染色を試み、HID+AB染色に比較し、より容易に陰性巣を検出しえ、また近位側における陰性巣も、検出が可能であることが分かった。HID+AB pH2.5染色及びAB pH 1.0染色は、BCACを含む前癌病変を容易に検出できる簡便な染色法であることが示唆された。今後、これらムチンの変化する病変とBCAC及び従来の前癌病変として利用されているaberrant crypt foci (ACF)との相互関係の検索が必要である。
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