脂肪細胞においてレプチン受容体シグナルによりPAI-1遺伝子発現が調節を受けているという仮説を検証すべく、我々は以下の実験を行った。 1.組換えレプチンの遺伝的肥満マウスob/obへの短時間投与による血中PAI-1量及び脂肪組織のPAI-1 mRNA量の解析: レプチン投与群では、6時間後にはコントロール群に比べ有意に血中PAI-1値が減少した。これに呼応するように内臓脂肪組織でのPAI-1 mRNA量もコントロール群に比べ有意に減少した。皮下脂肪組織や比較的PAI-1 mRNAが多く発現している肺組織においてもレプチン投与により、6時間、24時間後共にPAI-1 mRNA発現量の低下が認められた。 2.前駆脂肪細胞3T3-L1を用いたレプチン強制発現によるPAI-1遺伝子発現に与える影響: 5PAI-1転写調節領域/ルシフェラーゼ(5 PAI-1/Luc)レポーターベクターとレプチン発現ベクターを共トランスフェクションするとレプチン発現ベクター量依存的にLucを指標としたPAI-1遺伝子転写活性を抑制した。 3.PAI-1遺伝子発現調節領域におけるレプチン応答抑制配列の同定: 5 PAI-1転写調節領域を順次-1147から-166 bpまで欠失させたいずれのレポーターでもレプチン発現ベクターを共発現したものでは、空ベクターを共発現させたものより有意にLuc活性は低下した。-166 bpよりも下流の配列が重要であると思われる。 4.レプチン受容体アイソフォームの役割の検討: 脂肪細胞にはレプチン受容体のロングフォーム(LF)とショウトフォーム(SF)が存在しているが、このどちらの型の受容体がPAI-1発現抑制に関与しているかを検討した。空ベクターのみをトランスフェクションしたときの転写活性を100%とした場合、SFとレプチン発現ベクターの組合せでは70〜75%に低下し、予想に反し、LFとレプチンの組合せでは、180〜200%の転写活性上昇が認められた。以上の事から、PAI-1遺伝子発現抑制に関わるのはショウトフォーム受容体であり、MAPK系シグナルが関与する事が示唆された。
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