我々が分離したv-srcによるトランスフォーメーションを抑制する活性を持つ新規癌抑制遺伝子drsはヒト癌細胞株においてもサイクリンAの発現抑制を介して足場非依存性増殖を抑制する。またこの抑制活性にはdrsの細胞外領域の3つのconsensus repeatと細胞内領域の両方が必要であることをこれまでに明らかにしている。本年度、我々はdrs遺伝子による癌化抑制機構と実際のヒト癌発生におけるこの遺伝子の役割を解析し以下の成果を得た。 1.様々なヒト癌組織におけるdrs遺伝子の発現を調べ、現在までに大腸腺癌、肺腺癌、前立腺癌、ATLのリンパ腫の悪性組織でdrs mRNAの発現抑制が高頻度で起こっていることを明らかにした。 2.プロテオミクスの手法を用いてDrs結合蛋白としてBiP/QRP78とα-glucosidasellを同定した。 3.ジーンターゲッティングによりDrs欠損ES細胞クローンを複数株分離し、キメラマウスを複数ライン得ることに成功した。現在、野生型マウスと交配し生殖系KOマウスを作製している。 4.Sushi motifを欠くmurant drsを高発現するTgマウスを得てその表現型と癌形質の発現に対する影響を解析している。 上記の結果から様々な実際のヒト癌組織においてもdrsの発現抑制と悪性化形質の発現が密接に関連していることが明らかになってきた。Drsによる癌化抑制は細胞外から細胞内への何らかのシグナル伝達が関わっていると考えられる。Drs蛋白と結合する蛋白を同定しその機能を解析することによって癌化抑制機構を明らかにしてゆきたい。さらに作製したdrs KO mouseおよびTg mouseの解析によって個体レベルでの発がん過程におけるdrs遺伝子の役割と種々の正常細胞においてdrsがどのような機能を担っているのかも明らかにしてゆく。
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