LMO2はヒトT細胞リンパ性白血病に伴う染色体転座によって活性化される遺伝子で、我々は、gene targetingとキメラマウスを組み合わせた手法により、この産物の転写因子は胎生期における造血の開始、血管系の構築(embryonic angiogenesis)に必要な蛋白であることを明らかにしてきた。LMO2はLIM domainと呼ばれる蛋白間結合に必要なdomainを持ち、直接DNAに結合しないものの、転写因子複合体の一部として働く。マウスの発生期血管形成では、この蛋白はその第一段階(primary capillary networkの形成まで)には必要とされず、primary capillaryから階層性のある血管系を作る第二段階(angiogenesis)で必要となる。胎生期以降もこの蛋白はアダルトマウスの血管内皮細胞で発現しており、成人型の血管新生にも必須の転写因子である可能性を強く示唆する。我々はこのような成人型の病的な血管新生の代表として腫瘍増殖にともなう血管新生を選び、転写因子による血管新生制御の分子機構、特にLMO2を中心とする転写因子複合体の役割を研究してきた。今回の実験では、Lmo2遺伝子座を両方ノックアウトしたES細胞(-/-)と片方のみノックアウトしたES細胞(+/-)(いずれも内皮細胞は導入されたlacZによりラベルされている)をヌードマウスの皮下に注射し発生するteratocarcinomaでのES細胞由来の腫瘍血管(X-gal染色後は青に染まる)の発育を観察し、両者を比較した。この結果、Lmo2(+/-)ES cell由来の腫瘍では皮下注射後3週で染色後青色の血管系の発育が観察されたが、(-/-)ES cell由来の腫瘍ではこれが観察されなかった。このことは腫瘍血管新生においても、LMO2は必須の転写因子の一員であることを示している。
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