研究概要 |
我々はこれまで、肝細胞増殖因子(HGF)を特異的に活性化させるセリンプロテアーゼであるHGF Activator (HGFA)、及びその活性調節因子であるHGF activator inhibitor type-1(HAI-1)及びtype-2(HAI-2)が、消化管潰瘍性病変の回復期において高発現されることを報告してきた。さらに、マウスHGFA, HAI-1, HAI-2遺伝子をクローニングし、現在これらの遺伝子を欠損したマウスを、熊本大学の山田源教授らのグループと共同で作成している。本研究では酢酸経直腸投与及びDextran Sodium Salfate(DSS)経口投与などによる消化管潰瘍モデルにおいて、これらの遺伝子欠損マウス及びコントロールの正常マウスを用いて、消化管粘膜上皮再生修復時に高発現するこれらHGF関連蛋白の発現動態を検討することを目的としている。本年度はまず作成したHGFA knockout miceの解析を中心に行った。HGF knockout miceは肝臓及び胎盤の形成不全によりembryonal lethalだと報告されているが、HGFA knockout miceは正常に生まれ、正常に生殖能も持っていた。HGFの活性化能はノックアウトマウス血清中には認められないので、HGFAの機能は完全に欠損していた。すなわち正常な成長時のHGFの活性化にはHGFAは関与していないか、あるいは他の酵素で代償されている可能性が考えられた。しかし、実験的に肛門から5%酢酸を注入して作成した大腸酢酸潰瘍では、コントロールマウスは3日後には一部うっ血や浮腫が認められるもののほぼ粘膜上皮の再生が完了しているのに対し、ノックアウトマウスでは、まだ炎症が引き続いており、粘膜上皮の再生が遅延する傾向にあることが判明した。このことは、炎症や組織障害後の粘膜上皮再生にはHGFAによる局所でのHGFの活性化が大変重要であることを示唆している。現在さらに実験数を増やしてこのことを確認するとともに、他の方法での潰瘍モデルでも同様の現象が観察されるかどうか検討している。またHAI-1及びHAI-2のノックアウトマウスの表現形解析も並行して進めている。
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