肺上皮細胞および肺癌細胞の分化決定におけるNotchシグナルの意義

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13670225
• 研究機関: 横浜市立大学
• 研究代表者: 伊藤 隆明 横浜市立大学, 医学部, 助教授 (70168392)
• 研究分担者: 北村 均 横浜市立大学, 医学部, 教授 (20094302) ; 影山 龍一郎 京都大学, ウイルス研究所, 教授 (80224369) ; 矢澤 卓也 横浜市立大学, 医学部, 講師 (50251054)
• キーワード: 肺上皮細胞 / 肺癌 / 細胞分化 / Notchシグナル / 転写因子 / 肺神経内分泌細胞 / 間質性肺炎

研究概要

Notchシグナル伝達系は、様々な細胞系の分化調節機構として重要で、性状は肺上皮細胞の分化決定や肺癌の組織型決定に重要な働きをしていると考えられている。また、その分化決定は、Notchシグナルは分化の促進性(例えばMash1)及び抑制性(例えばHes1)のbasic helix-loop-helix型転写因子を調節することにより遂行されると思われる。
本年度の研究では、神経内分泌への分化を示すヒト肺小細胞癌培養細胞に、Notch1遺伝子、intracytoplasmic domainのNotch1遺伝子、神経内分泌分化の分化促進型basic helix-loop-helix因子のhASH1のantisense遺伝子などを導入し、またヒト肺腺癌および扁平上皮癌にhASH1遺伝子を導入することにより、遺伝子改変株の作製を試みた。また、各種肺疾患手術例の組織を用いて、hASH1やNotch1の発現を検討した。
遺伝子導入株の解析はまだ十分できてはいないが、小細胞癌にNotch1遺伝子を導入することにより、増殖能の低下、神経内分泌分化の消失、腫瘍細胞の上皮化など形態変化が見られ、Notch1はただ単に細胞分化だけでは無く様々な生物学的な機能への関与が考えられた。また、ヒト肺癌手術例では、Notch1の発現は腺癌や扁平上皮癌で高頻度に認められ、腺癌ではその免疫染色性は分化度に相関したが、臨床病期やリンパ節転移の有無とは関係がないと思いわれた。間質性肺炎では、神経内分泌細胞の増加があり、同時にhASH1の発現の亢進を伴っていた。これらの研究より、ヒト肺疾患では、Notchシグナル系やbasic helix-loop-helix因子が細胞分化を中心に影響を持っていることが明らかになった。

研究成果

• [文献書誌] Goshima Y., Ito T., et al.: "Semaphorins as signals for cell repulsion and invasion"J. Clin. Invest.. 109・8. 993-998 (2002)
• [文献書誌] Yazawa T., Ito T., et al.: "Complicated mechanisms of Class II Transactivator Transcription deficiency in small cell lung cancer and neuroblastoma"Am. J. Pathol.. 161・1. 291-300 (2002)
• [文献書誌] 伊藤 隆明, 他: "肺発生とアポトーシス"The Lung perspectives. 10・3. 278-282 (2002)
• [文献書誌] Ito, T., et al.: "Modulation of pulmonary neuroendocrine cells in idiopathic interstitial pneumonia"Histol. Histopathol.. 17・3. 1121-1127 (2002)
• [文献書誌] Hiroi N., Ito, T., et al.: "Mammalian Rcd1 is a novel transcriptional cofactor that mediates retinoic acid-induced cell differentiation"EMBO J.. 21・19. 5235-5244 (2002)
• [文献書誌] Ito T., et al.: "Mechanisms of neuroendocrine differentiation in pulmonary neuroendocrine cells and small cell carcinoma"Endocr. Pathol.. (in press). (2003)