研究概要 |
【平成14年度研究実績】平成13年度には,Ewing肉腫細胞において発現している遺伝子を検索し,分化抑制遺伝子Id2が特異的に高発現していることを見いだした.今年度はId2遺伝子をキメラ蛋白の標的遺伝子の一つと考え,キメラ蛋白とId2遺伝子との相互作用を詳細に解析した. 1.Id2遺伝子のプロモーター配列を単離し,キメラ蛋白のId2遺伝子発現に及ぼす作用を詳細に検討した結果EWS/etsキメラ蛋白はets認識配列を通してId2遺伝子の発現を促進していることが明らかとなった.さらにキメラ蛋白の方がprorotypeのets蛋白よりさらに強い転写活性化があることが確認された. 2.キメラ蛋白とId2遺伝子プロモーターとの相互作用を解析した結果,キメラ蛋白がId2遺伝子の転写調節配列に直接結合することが明らかとなった.さらに,キメラ蛋白はc-myc, cyclin D, matrix metalloproteinase(MMP)-1の転写調節領域にも結合していることが明らかとなった. この研究によりEWS/etsキメラ蛋白は直接的に分化抑制遺伝子であるId2を活性化することが明らかとなった.キメラ蛋白によって発現の亢進したId2はretinoblastoma protein(RB)と結合しているE2Fを遊離させ,細胞を分裂増殖へと向かわせると考えられる.一方では,Id2は分化に関与した遺伝子の発現に必要なE蛋白のヘテロダイマー形成を阻害し,正常の組織系列への分化を抑制することが考えられる.即ち,Ewing肉腫ではEWSキメラ蛋白の出現によりc-myc/RB/Id2の遺伝子系列が活性化され細胞増殖へと進む一方,E蛋白による分化が抑制され極めて未分化な形態を示すことと考えられる.Ewing/PNET肉腫発生の分子メカニズムの詳細な解明は分子標的治療法の開発につながるものと期待される.
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