研究概要 |
悪性黒色腫(メラノーマ)は、欧米のみならず本邦でも増加する傾向にある。メラノーマは、種々の化学療法剤や放射線に対して強い抵抗性を示す拒めて悪性度の高いがんである。正常なメラノサイトおよびメラノーマ細胞に特異的に存在する酵素であるチロシナーゼは、L-チロシンをメラニン色素へと政化転換する。これまで、我々が検討したフェノール化合物のうち、4-S-システアミニルフェノール(4-S-CAP)が量も有望な抗メラノーマ効果を示すことが判っている。4-S-CAPはチロシナーゼの良好な基質となるため、メラノーマ細胞に取り込まれると酸化され、ジヒドロ-1,4-ベンゾチアジン-6,7-ジオン(BQ)となり、メラノーマ細胞内で還元型グルタチオンと急速に反応して減少させ、B16メラノーマ細胞に対して高い細胞毒性を及ぼすことが報告されている。しかしながら、4-S-CAPは血圧降下作用を示すことから、in vivoにおける投与量が制限されるという問題点がある。 今回、我々は4-S-CAP同族体の鏡像異性体について、一方の鏡像異性体はメラノーマチロシナーゼの基質となり抗腫瘍作用を発揮するが、もう一方は血圧降下作用を有するであろうと期待し、α-メチル-4-S-システアミニルフェノール(α-Me-4-S-CAP)およびα-エチルー4-S-システアミニルフェノール(α-Et-4-S-CAP)の鏡像異性体(R体,S体)を新規に合成した。我々が期待したように、(R)-α-Me-4-S-CAPおよび(S)-α-Et-4-S-CAPはB16メラノーマの皮下での増殖を強く抑制し、C57BL黒色マウスの毛包メラノサイトの脱色を引き起こしたのに対し、(S)-α-Me-4-S-CAPおよび(R)-α-Et-4-S-CAPでは低い効果しか示さなかった。その作用機序としてチロシナーゼ依存性であることが示唆され、さらに(R)-α-Me-4-S-CAPの効果は4-S-CAP同様にGSHの枯渇とSH酵素の阻害によるが、(S)-α-Et-4-S-CAPの効果はメラニン生成能に基づきながらも新規の機序の寄与が示唆された。
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