本研究の目的は、「軟骨細胞分化能を有する細胞株を用いて機能軟骨組織を人為的に作製し、破壊軟骨の修復技術を開発すること」である。初年度に機能軟骨組織の作製、2年目に動物モデルを用いた同組織の適用性の検討を行う計画を立案した。 まず、p53遺伝子欠損マウスの肋軟骨から樹立されたN1511細胞株の性質の検討を行ったところ、同細胞はPTHとデキサメサゾン、あるいはBMPとインシュリンの2剤併用により分化誘導された。BMP・インシュリンによる分化誘導では、細胞は同期して分化し最終分化に至る一方、PTH・デキサメサゾンによる分化誘導では明らかなnodule形成を示しつつ分化したが、肥大軟骨細胞にまでは分化しなかった。p53を本細胞株に発現させたところ、BrdUの取り込みが低下し、細胞増殖の抑制が確認された。p53を発現している細胞ではBrdUの取り込みは見られなかった。以上の結果から、N1511は内軟骨性骨化の全過程を再現する細胞株であり、p53の発現により増殖を人為的に制御しうることが示された。以上の研究結果は現在、英文専門誌に投稿中である。 我々はさらに、同細胞をポリ酪酸・コカプロラクトンとコラーゲンとの混合によってつくられた支持体内にて増殖させた後、分化誘導して、軟骨組織の形成能の検討を試みたが、支持体内に細胞が均等に分布せず、軟骨組織の形成は殆ど認められなかった。支持体内に細胞を均等に分布させる方法を思案・検討中である。N1511細胞のTransforming Growth Factor (TGF)-β superfamilyに対する応答性に関しては、TGF-βおよびBone Morphogenetic Protein(BMP)とそのreceptorの各分化段階における発現を検討中である。
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