ミトコンドリア(MT)は核遺伝子とは独立した遺伝子を持ち、その変異の蓄積のメカニズムはなお不明である。ラットを用い、心筋、腎皮質、脳実質の組織で加齢的MT遺伝子欠損(del4834bp)を検討すると、その蓄積は老化に伴い起こる。その程度は心筋と脳組織で多く、腎で少ないことから、再生不能細胞で蓄積する。その為、若年と高齢ラットに5/6腎摘を行った後、残存腎組織内MT遺伝子欠損を比較検討した。腎摘ラットは高血圧症を呈し、残存腎組織内の糸球体は代償性肥大と硬化が進行し、間質障害も出現した。チトクローム酸化酵素活性は、対照群の半分以下に減少したが、若年と老齢ラット間には差はなかった。しかし、両年齢ラットの腎皮質内MT遺伝子欠損は、腎摘で増加しなかった。次に2型糖尿病モデル(OLETF)ラットを用いた。OLETFは加齢とともに、NIDDMの病態を呈する。加齢とともに腎内MT遺伝子欠損は増加し、細胞の老化の指標酵素(SA-β-gal)活性も尿細管細胞内に発現した。次に、尿細管障害を起こすCdに着目した。Cdを培養尿細管上皮細胞に添加すると、MT膜ポテンシャルは低下し、アポトーシス誘導された。Cd耐性細胞を長期間培養しても、MT遺伝子欠損は起こらなかった。つまり、培養細胞には生体内とは異なるメカニズムが存在すると考えられた。一方、ラットを長期間Cdに暴露すると、腎尿細管上皮細胞内MTに、数の減少、酸化物の蓄積とともに、老化細胞にみられるSA-β-galが強く発現した。MT遺伝子欠損は加齢とともに出現してきたが、その量はCd投与により有意に増加していた。以上より、腎臓でのMT遺伝子欠損は加齢とともに徐々に蓄積するが、糖尿病やCd中毒など慢性病的環境下で、その欠損の蓄積が加速されることが示された。再生能力を有する組織でのMT遺伝子欠損の蓄積は、再生能力が低下した老化細胞で多くなるという事実から、これからの高齢者社会の中で起こることが予想される老化関連疾患の病因解明に大きな示唆を与える。
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