大脳変性の自然発症モデルであるSAMP10(老化促進モデルマウス)を用い、以下の成果を得た。 1.大脳辺縁系に好発するユビキチン化封入体 老齢SAMP10に、ユビキチン化された封入体を有するニューロンが多数見られた。この封入体は既知の封入体とは染色態度が異なっていたが、大脳辺縁系に始まり、新皮質へと拡散するパターンはアルツハイマー病変の分布パターンと似ていることを示した。 2.加齢にともなうニューロン核内DNA傷害 SAMP10では、辺縁系・前頭前野などで、ニューロンの核内TUNEL陽性度が加齢と伴に増加した。TUNEL陽性細胞ではアポトーシスは起こしていなかった。このDNA断片化は、ニューロンの細胞体萎縮などと関連する一種の変性像であることを示した。 3.加齢にともなうシナプスの減少 シナプス関連タンパク質を定量評価し、SAMP10のニューロピルにおける変性程度を部域別に明らかにした。その結果、前頭皮質において部位特異的にシナプス量が加齢に伴って50%以上減少することを示した。 4.前頭前野ニューロン樹状突起の加齢変化 定量的ゴルジ法を用いて、前頭前野錐体細胞の老化は8ヵ月齢までに尖端側樹状突起の遠位端のわずかな消失に始まり、それ以降は、全体的な複雑性は比較的保ったまま細胞体へ向けて徐々に退縮してゆくこと、また、スパイン密度が減少することを示した。 5.量的形質遺伝子座連鎖解析のための大規模交雑集団の作成 SAMP10とSAMR1との交雑F_1、F_2マウスの大規模集団を作出し、16ヵ月齢まで自然老化させた。すべての個体で、モリス水迷路学習試験、脳重計測および大脳マクロ的計測を完了した。マイクロサテライトをマーカーとして、多型を示す染色体領域が多く存在することを示した。
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