研究概要 |
血栓症の危険因子である抗リン脂質抗体は、周産期領域では胎盤に血栓を形成することで流死産を起こす。患者の抗リン脂質抗体を妊娠マウスに投与すると流産が起こるが、補体C3欠損マウスでは流産が起こらないことから、抗リン脂質抗体による流産には補体活性化が関わっている。 アポトーシス細胞には補体C3が結合するが、補体制御H因子によって活性化が阻害され、非活性C3断片iC3bを標的とした貪食によって非炎症的に処理される。そこで、「抗リン脂質抗体はH因子とアポトーシス細胞初期に細胞膜上に露出するフォスファチジルセリン(PS)との結合を阻害することで、H因子によるC3制御を障害し、補体活性化を介して凝固系の活性化が起こる」という作業仮説を立て、今回、次のことを明らかにした。 (1)ELISAを用いるH因子とリン脂質の結合解析によって、H因子の陰性荷電リン脂質(PS,CL)への結合を証明した。 (2)H因子はActinomycin Dによってアポトーシスを誘導したJurkat細胞に結合することを蛍光顕微鏡下で証明した。 (3)ELISAによって、不育症患者の中にH因子に対する自己抗体を有する患者があることを証明した。 妊娠初期子宮内膜では胎盤形成に伴うアポトーシスが活発に起こっており、また、絨毛のトロホブラスト細胞ではアポトーシス初期と同様に細胞膜上へのPSの露出が起こることから、これらの実験結果は抗リン脂質抗体による流産にも適用できると考えられ、今後、H因子を中心にした補体制御による治療の方向が考えられた。
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