研究概要 |
自己抗体である抗リン脂質抗体aPLが特に子宮内(あるいは胎盤)において血栓を好発する原因は明らかでない。血栓が好発する妊娠初期には絨毛や子宮蝶旋動脈など血液に接する面でアポトーシスが起こっていることが知られており、その隙に、血液に暴露する陰性荷電リン脂質、具体的にはフオスフアチジルセリン(PS)、は凝固の素地になるはずである。従って、aPLの分子病態論を構築するには、PS露出に際して当然起こり得るべき凝固を防止する生理機構の解明が必要であり、その機構のaPLによる破綻あるいはかく乱によって説明されるべきであろうと考えた。 そこで、オクチルセフアロースに固相化したPSにイオン的に結合する血漿成分をプロテオーム技法により探索した。支持体として用いたオクチルセフアロースはリポタンパク質など脂溶性分子に対して親和性があるので、そのような非特異的結合成分を未処理の固相化オクチルセファロースで予め血漿から除いておいた。その結果、β2GPI, IHRP、補体第4因子,factor H, FHR-1の5つのタンパクが挙がった。 PS結合性が知られているβ2GPIが検出されたことは、この方法が所定の目的を達しているであろうことを示していた。その他の分子についてはリン脂質結合タンパク質としては分類されていない。中でも、factor Hは自己膜面上でC3bに結合することで、非自己膜に対しては起こるべき補体活性化を制御していることが知られており、factor H欠損症では腎微小血管血栓を病理像とする溶血性尿毒症症候群を起こし、aPLもまた腎梗塞、腎微小血管血栓が好発であることを考えると、分子病態との関わりは容易に推測できる。他の分子も含め、この実験結果は陰性荷電リン脂質の血液への暴露に際し、補体経路が非炎症的な制御のための役割を果たしている可能性を示唆した。
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