研究概要 |
紫外線照射(5mJ/cm^2)した旋毛虫(Trichinella spp.)幼虫をマウスに経口投与することで、旋毛虫腸管寄生に対する高い感染防御能が誘導される。このワクチン効果と粘膜IgAを介した免疫応答との関連性を調べるべく、感染防御誘導BALB/cマウスの腸間膜リンパ節細胞を起源として、旋毛虫感染幼虫に特異的なマウスIgAモノクローナル抗体を作製した。その中から感染幼虫の分泌/排出抗原に特異的なIgA抗体(HUSM-T. b.1)を選別し、マウスに受動免疫して感染防御能を検討したところ、腸管での旋毛虫定着を95%以上阻止できた(lnaba et al. 2003)。この受動免疫が最大効果を示すのは、感染5時間前に体重20gあたりIgA抗体2mgを腹腔内投与した時である。また、このIgA抗体の受動免疫はT.britoviあるいはT.pseudospiralisといった旋毛虫属線虫に広く有効であり、その作用は感染幼虫の腸粘膜上皮への侵入を防ぐことによる。マウスIgAモノクローナル抗体を用いた受動免疫はラットでも同様の効果がみられたが、スナネズミ(Meriones unguiculatus)では効果がない。このことは、スナネズミ粘膜上皮細胞のplgRとマウスIgAとの結合性が低いことを示唆している。最近、スナネズミの抗体応答の特異性が指摘されており(Mohanty & Ravindran,2002)、IgA抗体を含めた抗体応答全般について、あるいは腸管免疫の種特異性へと解析を発展させている。 IgA粘膜免疫応答はT細胞応答への依存性が高い。スナネズミでのT細胞応答を特徴づけるために、皮膚感染症に対するこの動物種の樹状細胞の動態を検討した。樹状細胞の特異的標識のために、抗スナネズミMHC class IIモノクローナル抗体を作製した(Sato et al. 2001)。スナネズミでは免疫誘導期に重要な働きをもつ樹状細胞の反応性が低く、それに起因してT細胞応答が他種動物ほどには効率よく誘導されないことが示唆された(Sato & Kamiya,2001)。T細胞応答を介した感染防御がスナネズミで機能しているのか否か、この点を調べるために、特異モノクローナル抗体の連続注射によりT細胞を枯渇させたスナネズミにマンソン住血吸虫、Trypanosoma grosi, Trypanosoma cruzi感染を行った。T細胞枯渇は致命的な感染症を引き起こすことから、スナネズミでのT細胞依存性免疫応答の重要性が確認されたが、そのeffector機構については今後も検討する必要がある。
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