研究概要 |
紫外線照射旋毛虫幼虫を反復経口投与し、非照射旋毛虫幼虫でチャレンジしたマウスの腸間膜リンパ節細胞を起源として、旋毛虫感染幼虫に特異的なマウスIgAモノクローナル抗体パネルを作製した。その中から感染幼虫の分泌/排出抗原に特異的なIgA抗体(HUSM-T.b.1)を選別し、マウスに受動免疫して感染防御能を検討したところ、腸管での旋毛虫定着を95%阻止できた。受動免疫は感染5時間前に、体重20gあたりIgA抗体2mgを腹腔内投与することで最も効果が高かった。この受動免疫はラットでの感染に対しても同様の効果をもつが、スナネズ(Meriones unguiculatus)では効果がまったく見られなかった。この特性が実験動物化されたスナネズミだけに限られる特性であるのか、あるいはMeriones属全般にいえる特性であるのかを検証するために、中国産野生スナネズミ3種(M.erythrourus, M. meridianus, M. tamariscinus)を用いて、受動免疫実験を実施した。野生スナネズミでも受動免疫の効果はなかった。このことから、Meriones属全般においてマウス由来IgAに対する粘膜上皮運搬能が低いことが示唆された。その要因として、粘膜上皮細胞IgAレセプター(pIgR)のスナネズミ固有性と、この動物においては本質的に粘膜IgA免疫能・運搬能(レセプター発現)が低い可能性が考えられ、この点については現在、分子生物学的手法で検討を継続している。 これと並行して、スナネズミの感染防御機構への理解を深めるべく、1)補体依存性(抗Thy-1)糸球体腎炎モデルを用いた補体活性の確認、2)スナネズミT細胞表面抗原に特異的なモノクローナル抗体の作製と、T細胞枯渇が感染経過に与える影響の検討、3)スナネズミMHC class II抗原に対するモノクローナル抗体の作製と、侵入因子に対する皮膚樹状細胞の応答性の検討、4)抗体依存性排除が働く非病原性トリパノソーマ症スナネズミモデルの開発と、感染経過に伴う抗体応答の検討等を実施した。スナネズミの複数の主要な免疫因子に対するモノクローナル抗体の確保やスナネズミIgG抗体での2つのサブクラスの初確認など、感染症モデル動物としてのスナネズミの利用性を向上させる知見を収集した。
|