本研究ではトキソプラズマにおげる核酸前駆体合成経路のひとつであるピリミジン新生合成経路の流量調節物質を研究年度内に明らかにすることを目的とした。そのために核酸前駆体、プリン・ピリミジンヌクレオチドの細胞内濃度の測定方法を検討した。高速液体クロマトグラフィーにより各種のヌクレオチドは分離可能で感度的にも実験系を網羅する範囲内であった。もうひとつのアプローチ方法である、ピリミジンヌクレオチドの新生合成経路の中で最も重要と考えられる、経路の初段を触媒する酵素(CPS-II)の遺伝子のクローニングについて検討を行った。その結果全長ではないが基質の結合部位をコードするcDNAクローンが得られたが、ダートマス大学のグループが我々より先に全長配列を決定した。我々が得たクローンの配列情報及びダートマス大学の研究グループが最近明らかにした情報を総合すると、強力な活性化因子であるPRPPの結合部位が存在しないことが明らかとなった。そして我々の目的であるCPS-IIの活性調節の解析に関して、ダートマス大学との共同研究を行うことの合意が得られ、活性のある全長配列の遺伝子組換CPS-IIの作製を検討中であるが、かなり巨大なタンパク質であるので未だ遺伝子組換酵素の発現には成功していない。しかしトキソプラズマCPS-IIの全アミノ酸配列から読みとれる情報から、基質であるATPの供給が最も重要な因子であることが推測された。宿主内で増殖中の原虫内のATP濃度は宿主のATPとの区別が困難で正確な濃度の算出は困難であったがかなり高い(〜5mM)であることが推定された。一方増殖をしない細胞外のトキソプラズマ原虫のATP濃度はかなり低く(〜1mM)、CPS-IIのATPに対するKm値が〜10mMであることを考慮すると、トキソプラズマのCPS-IIは増殖しない条件ではほとんど活性がないことが推測された。以上の結果からエネルギー産生がピリミジン合成の流量に最も重要な因子であることが推定され、本研究の目標はほぼ達成された。
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