Entamoeba invadensのin vitro脱嚢系を用い、今年度はDNAポリメラーゼ阻害剤、情報伝達分子protein kinase C(PKC)、phosphatidylinositol 3-kinase(PI3K)の阻害剤およびシステインプロテアーゼ阻害剤の脱嚢・発育に及ぼす効果について検討した。DNAポリメラーゼ阻害剤aphidicolin存在下で脱嚢後アメーバ虫体数を比較した結果、濃度に依存した虫体数の減少が認められ、発育も阻害された。栄養型、嚢子に対するウサギ抗血清ならびに栄養型抗原で吸収した嚢子抗血清を用いたイムノブロッテイングにより虫体タンパク質の変化を調べた結果、aphidicolin存在下で高い割合を占める4核のアメーバには88kDaおよび66kDaの嚢子特異的タンパク質が存在するが、対照の培養3日目で大部分を占める1核のアメーバには存在せず、この過程で遺伝子発現の変化が起こっていることが明らかになった。以上の結果から、aphidicolinがEntamoebaの脱嚢および発育を阻害し、それにより遺伝子発現の変化も阻害することが示唆された。PKC阻害剤staurosporine、chelerythrine、calphostin Cは対照に比し濃度に依存してアメーバ虫体数を減少させたが、D-erythro-sphingosineは阻害効果を示さなかった。嚢子の生存率には影響を及ぼさなかったことから、阻害効果は嚢子への細胞障害効果によるものではないと考えられた。これらの阻害剤は対照に比し発育も遅延させた。PI3K阻害剤wortmanninも同様に脱嚢ならびに発育に対して阻害効果を示した。以上の結果から、PKCおよびPI3Kによる情報伝達系が脱嚢・発育においても貢献していることが示唆された。システインプロテアーゼ阻害剤Z-Phe-Ala-DMKおよびEST(E-64d)が濃度に依存してアメーバ虫体数を減少させたが、嚢子の生存率には影響を及ぼさず、発育に対してもこれらの阻害剤は阻害効果を示し、脱嚢・発育への関与が示唆された。
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