本研究では、カテコラミンレセプターを介した細菌感染防御の調節機構を解析する一方、免疫系と神経系を結ぶサイトカインとして注目されているmigration inhibitory factor(MIF)の関与を生体レベルで明らかにすることを目的とし、以下の結果を得た。 1.カテコラミンレセプターを介した細菌感染防御の調節機構 アドレナリンレセプター(AR)のアンタゴニストあるいはアゴニスト投与マウスにおけるリステリア感染防御とサイトカイン応答に対する影響を検討した結果、ARαアンタゴニスト投与マウスでは感染防御が抑制され、感染防御に必須であるIFN-γやTNF-α産生応答が低下していた。一方、ARβアンタゴニスト・アゴニストはそれらの指標に影響を与えなかった。 これらの結果から、ARαを介して、感染防御が複雑に調節されていること、その調節にサイトカイン産生調節を介していることが示唆された。 2.細菌感染におけるMIFの役割 (1)リステリア感染により、感染臓器にMIFが誘導された。感染時に抗MIF抗体を投与すると、非致死感染では影響は見られなかったが、致死感染では防御効果が認められ、非致死感染に転換した。 (2)リステリア感染防御に必須であるIFN-γおよびTNF-αの産生が、抗MIF抗体投与群において、感染早期では亢進していたが、対照群の致死前に相当する時期では低下していた。 (3)肝臓中のIL-10は、抗MIF抗体投与群において有意に上昇しており、抗MIF抗体投与群における肝機能の異常は、抗IL-10抗体の投与により、一部解除された。 (4)致死感染マウスの血中コルチゾールを測定したところ、抗MIF抗体投与群において対照群と比べ有意に低下していた。 これらの結果から、MIFは抗炎症性サイトカインの代表であるIL-10産生制御を介して、致死感染の病態形成因子として働くことが示唆された。
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