腸炎ビブリオは長年日本における食中毒原因のトップを占めている。この腸炎ビブリオ感染症に近年異変が起きている。従来、南アジアや北米では腸炎ビブリオ感染症はそれほど多くなかったが、この数年患者数や集団発生数が激増している。また、東南アジアや日本などもともと腸炎ビブリオ感染症が多かった地域でもその数が数倍にも上昇している。しかもそのほとんどがO3:K6という単一の血清型菌によるものである。このような単一血清型の腸炎ビブリオの世界的な流行というのはこれまでになかった。われわれはこの腸炎ビブリオO3:K6と従来の腸炎ビブリオとの違いを解析した結果、O3:K6血清型腸炎ビブリオ菌株に特異的に存在している線維状ファージf237を見いだした。その後1998年以降、O3:K6に加えO4:K68やO1:KUTといった血清型の腸炎ビブリオの分離が急増している。本研究ではわれわれが見いだしたファージf237に関して以下の点について明らかにした。 1.ファージf237の分布について、より最近の臨床分離腸炎ビブリオ菌株を用いて解析を行った。その結果、f237はO3:K6血清型菌のみならず、最近流行をみせているO4:K68やO1:KUTなどの血清型株においても存在していることを明らかにした。この成績はf237が新型腸炎ビブリオの流行性になんらかの関与をしている可能性を示唆する。 2.ファージf237が細菌染色体上にintegrationしていることを明らかにし、さらにそのintegration siteを同定した。
|