研究概要 |
バルトネラ属菌の一種でネコひっかき病の原因菌であるBartonella henselaeにおいて,血管内皮細胞接着分子の発現増強作用をフローサイトメーターを用いて検討した。ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)上の接着分子(ICAM-1,VCAM-1,E-selectin)は本菌との共培養により添加菌濃度依存的に発現が増強された。特にICAM-1の発現は著明であり本菌10^7CFU/mlの作用は大腸菌LPS(1μg/ml)のそれに匹敵した。ICAM-1の発現は刺激開始後4時間で認められはじめ12時間でピークに達し,以後持続した。この作用は本菌とHUVECsとの接触をフィルターで隔絶すると消失した。一方,内皮細胞への接着・侵入が出来ない本菌線毛欠損株でも接着分子発現増強作用は認められた。さらに加熱(56℃,30分)やUV照射,超音波破砕等による菌不活化処理を行っても本作用は減弱しなかった。これらより,線毛以外の菌体成分の一部が内皮細胞に直接的に接触することにより本作用が発揮されると推測された。次にその成分を検索するために,煮沸処理(100℃,15分)した菌体成分を、HUVECsに添加し作用の変化をみた。しかし,本作用に変わりはなく刺激因子は通常の熱感受性蛋白ではないと思われた。次に硫酸ポリミキシンB処理により本菌LPSの関与を検討した。その結果,大腸菌LPSによる接着分子発現増強作用は硫酸ポリミキシンBによりほぼ完全に抑制されたが,本菌による作用には全く変化がなかった。以上の結果より,本菌の血管内皮細胞接着分子発現増強因子は,通常のLPSとは異なる耐熱性菌体成分であると思われた。それには,耐熱性蛋白,脂質,特殊な構造のLPS等が考えられるが,現在その同定を行っている所である。本菌による血管内皮細胞接着分子増強作用は感染部位における炎症の惹起に重要な意義を有していると思われる。
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