研究概要 |
1.B. henselaeによる血管内皮細胞接着分子発現促進:ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)上の接着分子(ICAM-1,VCAM-1,E-selectin)は本菌により菌濃度依存的に発現が増強された。ICAM-1の発現は刺激後4時間で増強し始め,12時間でピークに達した。この作用は,線毛欠損株,菌不活化処理,煮沸処理,硫酸ポリミキシンB処理でも変化なく認められた。しかし,両者の接触をフィルターで隔絶すると消失した。本作用は,通常のLPSとは異なる,線毛以外の耐熱性菌体成分の直接的接触により起こると思われた。 2.B. henselaeによる内皮細胞のケモカイン産生増強:B. henselaeはHUVECsのIL-8,MCP1産生を菌濃度依存性に増強した。その作用は菌不活化,煮沸,硫酸ポリミキシンB処理でも失活せず,LPSの関与が示唆された。しかし,大腸菌LPSの場合と比較し,抗CD14抗体による作用の抑制は部分的であり,また,抗TLR-4抗体での抑制は認められなかった。本作用には,LPS以外の因子が関与していることが示唆された。 3.本菌LPSの生理学的活性:本菌抽出LPSではHUVECsのケモカイン産生増強効果などの生理学的活性は大腸菌LPSと比較し弱かった。このことは,本菌感染症では敗血症性ショックなどの重篤な全身症状を引き起こさないことと関連があるものと思われた。 4.内皮細胞活性化因子の分離:本菌の培養上清から,限外濾過法,ゲル濾過法,パーフュージョンクロマト法を用いて内皮細胞活性化因子の分離を試みた。その結果,それは分子量約3万の蛋白であると推定され,また,陽イオンカラム分画にて増殖促進作用を示すピークが観察された。 5.本菌による内皮細胞・好中球のアポトーシス抑制:本菌の培養上清により,HUVECs,好中球のアポトーシスが抑制されることを確認した。培養上清のパーフュージョンクロマト法による解析では,アポトーシス抑制効果を示すピークが認められた。このピークは,内皮細胞増殖促進効果を示すピークとは異なるものであった。本菌LPSはアポトーシス抑制効果を示さなかった。
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