研究概要 |
ウエルシュ菌β毒素は、壊疽性腸炎の原因毒素である。これまでに、β毒素が作用する細胞に関する報告はほとんどない。我々は、β毒素に対する感受性培養細胞系としてヒト急性前骨髄性白血病細胞であるHL-60細胞を見いだし、この細胞に対する本毒素の作用を解析した。 HL-60細胞にβ毒素を作用させて約5分後に,K^+イオンの遊離、その後遅れてCa^<2+>イオンの細胞内への流入が認められ、いずれも30分で最大となった。この時、顕微鏡で細胞の形態を観察すると、毒素処理約30分後、細胞の膨化が観察され、約2時間後ほとんどの細胞が膨化し、その後、破壊が認められた。β毒素処理したHL-60細胞からのLDH遊離を測定すると、本毒素処理後、約2時間でLDH遊離が始まり、その後、時間に依存して増加した。次に、β毒素のHL-60細胞への結合を解析するため、β毒素のN末端側に付加した領域を[^<32>P]-ATP存在下キナーゼでリン酸化した。このラベル毒素とHL-60細胞を37℃でインキュベーション後、種々の界面活性剤で可溶化し、SDS-PAGEとオートラジオグラフィーを行った。ラベルβ毒素のモノマーの結合が認められ、この結合は過剰のcold毒素の存在下で阻害された。一方、ラベルβ毒素オリゴマーは、いずれの界面活性剤を用いた場合も認められなかった。次に、種々の直径を持つポリエチレングリコール(PEG)を用いて検討した。その結果、本毒素のCa_<2+>イオン流入と細胞膨化作用は、PEG600の処理で阻害され、この結果から、1.55nmのポアーが形成されると推察される。以上から、β毒素はHL-60細胞に結合後、おそらく、界面活性剤に不安定なオリゴマーを形成して、K^+イオンの遊離とCa^<2+>イオンの細胞内への流入、そして、細胞の膨化を引き起こすと考えられる。
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