ウェルシュ菌β毒素の作用機構解析の糸口を見つけるため、本毒素のマウス皮膚血管透過性亢進活性を種々の濃度のβ毒素を皮内に投与し、次にエンバンスブルーを静注して、血管からの色素の漏出量を測定すると、本毒素5から50ngの投与で用量依存的にブルーイング活性の上昇を示し、本毒素は、マウス皮膚において血管透過性亢進活性を示すことが判明した。毛細血管の透過性の亢進は、肥満細胞からのヒスタミン遊離が関与している可能性が考えられるので、ヒスタミンH1レセプターアンタゴニストであるジフェンヒドラミンとβ毒素をマウスの皮膚に同時投与し、透過性亢進活性に対する影響を検討するとβ毒素の透過性亢進活性は阻害された。以上から、β毒素の透過性亢進活性には、ヒスタミンが関与している可能性が考えられる。次に、β毒素が、肥満細胞に直接作用し、ヒスタミン遊離を引き起こすかどうかを明らかにするため、マウス肥満細胞腫P-815細胞にβ毒素を作用させると、細胞からのヒスタミン遊離は殆ど観察されなかった。次に、一次知覚神経から遊離する神経ペプチドの効果を検討するため、種々のサブスタンスP(SP)レセプターアンタゴニストとβ毒素を、同時にマウスに投与すると、本毒素の透過性亢進活性は、全てのアンタゴニストで抑制された。さらに、皮膚の一次知覚神経末端に存在するSPをカプサイシン処理で枯渇させると本毒素の透過性亢進活性は殆ど阻害された。以上からβ毒素は皮膚表面の一次知覚神経末端からSPを遊離させ、このSPが肥満細胞を刺激し、ヒスタミン遊離を促進させ、遊離したヒスタミンが毛細血管に作用し最終的に血管透過性亢進を引き起こすと考えられる。この結果は、本毒素が、神経系を介して血圧上昇を示す結果からも支持される。
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