ウエルシュ菌β毒素は、壊疽性腸炎の原因毒素である。我々は、β毒素の感受性培養細胞であるHL-60細胞(ヒト急性前骨髄性白血病細胞)に対する作用、さらに、本毒素のマウス皮膚血管透過性亢進活性を検討した。HL-60細胞にβ毒素を作用させると急速な細胞からのK^+イオンの遊離が認められ、毒素処理約2時間後には、ほとんどの細胞が膨化し、その後破壊が認められた。次に、β毒素のHL-60細胞への結合を解析するため、[^<32>P]-ラベル毒素とHL-60細胞をインキュベーション後、SDS-PAGEとオートラジオグラフィーを行うとラベルβ毒素のオリゴマーが認められた。次に、種々の直径を持つポリエチレングリコール(PEG)を用いて検討した結果、本毒素の細胞膨化作用は、PEG600の処理で阻害され、この結果から、1.55nmのポアーが形成されると推察される。以上から、β毒素はHL-60細胞に結合後、オリゴマーを形成して、細胞内へのイオンや水分の流入を促進し、細胞の膨化を引き起こすと考えられる。次に、本毒素のマウス皮膚血管透過性亢進活性測定すると、本毒素5から50ngの投与で用量依存的なブルーイング活性を示した。本毒素の作用は、ヒスタミンH1レセプターアンタゴニストであるジフェンヒドラミンで阻害されたが、β毒素をマウス肥満細胞腫P-815細胞に作用させてもヒスタミン遊離は示さず、β毒素は間接的にヒスタミン遊離を示す可能性が考えられる。そこで、一次知覚神経から遊離するサブスタンスP(SP)の効果を検討するため、SPレセプターアンタゴニストを投与すると、本毒素の透過性亢進活性は、SPアンタゴニストで抑制された。さらに、皮膚の一次知覚神経末端に存在するSPをカプサイシン処理で枯渇させると本毒素の透過性亢進活性は阻害された。以上から、β毒素は皮膚表面の一次知覚神経末端からSPを遊離させ、このSPが肥満細胞を刺激し、ヒスタミン遊離を促進させ、遊離したヒスタミンが毛細血管に作用し、最終的に血管透過性亢進を引き起こすと考えられる。
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