分子モーター蛋白として、レトログレイドモーターとしてダイネインがアンテログレイドモーターとしてキネシンがある。単純ヘルペスウイルスの神経軸索輸送に関して、これら蛋白分子とウイルステグメント蛋白の相互作用を検討した。その結果、テグメント蛋白UL34が神経特異的分子モーター蛋白ダイネイン(IC1A variant)と高い親和性を示し、さらに、弱いながら普遍的モーター蛋白(IC2C variant)、カーゴアダプター蛋白(DCTN1;p150^<Glued>)とも親和性を示した。In vivoで、これらの関係を観察する為にrGFP-UL34リコンビナントウイルスを作成した。UL34の核膜への集積が観察されたのみで、微小管への集積は見られなかった。残念ながら、このリコンビナントウイルスはヘルパー細胞なしでは、遊離ウイルスとして取れなかった。つまり、rGFP-UL34はテグメント蛋白として機能しないし、且つビリオンの一部となっていない。 もう一つのモーター蛋白であるキネシンとテグメント蛋白US11が相互作用をすると最近報告されたのでアンテログレイド輸送の解析の為、rGFP-US11リコンビナントウイルスを作成した。このウイルスの感染細胞ではUS11の核小体への集積が観察されたが、微小管への集積は見られなかった。この蛋白はウイルス増殖に必須ではないが、神経軸索輸送には必須であるといわれているので、神経節細胞の初代培養系あるいは動物での実験が必要と思われた。動物実験を開始する前に、ウイルスの持つ燐酸化酵素(UL13とUS3)の微小管輸送と軸索輸送への影響を検討する為、以下のリコンビナントウイルスを作成した。US3遺伝子欠損ウイルス、UL13遺伝子欠損ウイルス、GFP融合US11リコンビナントウイルス、US3遺伝子欠損/GFP融合US11リコンビナントウイルス、UL13遺伝子欠損/GFP融合US11リコンビナントウイルス。これらの組み換えウイルスを用いた動物実験の準備が遅れた為、細胞培養レベルの実験と、ベクター作成の為のウイルスゲノムのパッケージングの実験を優先した。その結果、これらリコンビナントウイルス間で細胞培養レベルでは明らかな差は見られなかった。また、一方でユニット単位のウイルスゲノム切断に必要な切断酵素の塩基認識配列推定が出来た(将来のパッケージング実験の為の)。
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