1992年以降に分離されるヒトインフルエンザウイルス(Ch-)は、ニワトリ赤血球には結合しないが、ヒト赤血球とニワトリ人工赤血球には結合することを我々はすでに報告している。一方、血球上のシアリル糖鎖を解析すると、ヒト血球ではモノシアリル糖鎖が全シアリル糖鎖の90%以上を占めるのに対し、ニワトリ血球ではモノ、ジ、トリシアリル糖鎖がほぼ、等量ずつ存在する。この結果は、近年のヒトインフルエンザウイルス(H3N2)が認識できるシアリル糖鎖がモノシアリル糖鎖である可能性を強く示唆した。そこで、Ch-ウイルスが認識するシアリル糖鎖構造と認識できない構造を明らかにするため以下の実験を行った。ニワトリ赤血球上のシアリル糖鎖上のシアル酸を全て除いた後、人工的にシアル酸を糖鎖末端に転移して作成した人工赤血球と本来のニワトリ赤血球の血球膜上からアスパラギン結合型糖鎖をもつ糖蛋白質を分離し、糖鎖を切り出し、蛍光修飾後、高速液体クロマトグラフにより、シアリル糖鎖の分析を行った。その結果、人工赤血球では、モノシアリル分画の糖鎖とジシアリル糖鎖の分画の量比が、ほぼ6対1であった。一方、インフルエンザウイルスの分離に用いられているMDCK細胞の細胞膜上のシアリル糖鎖もニワトリ血球に類似の分布を示す。また、MDCK細胞に対する結合能は、Ch-ウイルスでは低下している。以上の結果から、Ch-ウイルスのニワトリ血球やMDCK細胞に対する結合能の低下は、シアリル糖鎖のうち、モノシアリル糖鎖に対する親和性が高いものの、ジシアリル、トリシアリル糖鎖に対する親和性が、受来のウイルスに比べ低下しているためである可能性が強く示唆された。今後、各シアリル分画を分取し、ウイルスとの結合能を検討し、さらにシアリル分画中の糖鎖構造を明らかにすることで、Ch-ウイルスがレセプターとして認識できる糖鎖構造が明らかとなる。
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