研究概要 |
1992年以降に分離されるヒトインフルエンザウイルス(Ch-)は、ヒト血球を凝集するがニワトリ血球を凝集しない。このレセプター結合能の変化のMDCK細胞への結合能への影響を検討し、また現在流行しているCh-ウイルスが認識しうるレセプター構造の同定を試みた。Ch-ウイルスの解析は、Ch+ウイルス(1992以前に分離されニワトリ血球を凝集する)との比較で行った。その結果(i)Ch-ウイルスは、NA阻害剤100μモル存在下でもMDCK細胞で、阻害剤非存在下と同程度にプラーク形成能を示すが、Ch+ウイルスは1μモルの阻害剤存在下でプラーク形成能は抑制された。この時、両ウイルスのNA活性は阻害剤により90%以上抑制されている。さらにCh-ウイルスのHA遺伝子を持つリアソータントウイルスを作成し、そのNA阻害剤に対する耐性を検討した結果、Ch-ウイルス同様NA活性は抑制されているにも拘らず、MDCK細胞でのプラーク形成能は阻害剤耐性を示した。以上の結果は、Ch-ウイルスHAのレセプター結合能が変化した結果、MDCK細胞への結合能が低下し、ウイルスが出芽する際細胞表面上のシアル酸への結合が弱いためNAの活性を必要とせず出芽できるようになったことを示唆した。(ii)そこで、MDCK細胞上のシアリル糖鎖に対するCh-ウイルスの結合能を調べた結果、Ch-ウイルスの結合能はCh+ウイルスの約1/5に減少していた。さらに、MDCK細胞上のシアル酸を除いた後、外から人工的にシアル酸を導入した細胞を作成しそれに対するCh-ウイルスの結合能を調べた結果、この人工細胞に対しては結合能を回復した。このときMDCK細胞上に導入されたシアリル糖鎖の配列はSAα2,6GalβGlcNAcを含むものであった。従って、Ch-ウイルスのレセプター結合能はこの配列を強く認識するように変化したと考えられる。
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