本研究の目的は、1997年に発見されたTTウイルスの感染実態と自然史を調べ、TTウイルス感染と各種肝疾患の病態との関係を明らかにするために、TTウイルス抗原及びIgMクラス、IgGクラスの抗体の測定系を確立することにある。初年度に、TTウイルスのプロトタイプである遺伝子型1aのキャプシド蛋白(ORF1)の一部を大腸菌で発現、精製し、これを抗原としてモノクローナル抗体を作製した。今年度は、このモノクローナル抗体の認識アミノ酸配列部位を明らかにするとともに、この抗体がWestern blotting法によるORF1蛋白の検出に用いることができることを示した。さらに、大腸菌で発現したこのORF1蛋白をヒトの血中のTTウイルス(遺伝子型1a)に対する抗体を調べるための抗原としての利用を試みたが、この精製蛋白は凝集し易く抗体測定系の抗原としては安定した結果が得られず断念した。そこで、抗原として最も有効なTTウイルス粒子の産生を目的として、培養動物細胞株とカイコの幼虫での発現を行った。夫々の発現ベクターを作製し、動物細胞及びカイコ幼虫ヘトンスフェクションを行った。動物細胞株での全長TTVゲノム遺伝子を用いた発現では、予測される3種類のmRNAの発現は確認されたが、ORF1からORF4と思われる明瞭な蛋白の産生は確認されなかった。また、カイコでのORF1からORF4の各遺伝子を発現するための組換えバキュロウイルスの同時感染による発現では、Western blotting法によってORF2に対するモノクローナル抗体に反応するシグナルが得られた。本研究では、これらTTウイルス蛋白の組換え遺伝子発現によって産生した蛋白を抗原としてモノクローナル抗体を作製し、Western blotting法により特異的なTTウイルス蛋白の検出法を確立することができた。
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