我々は、これまでに、トリ肉腫ウイルスCT10の癌遺伝子産物であるv-Crkによる細胞癌化においてP13K/AKT経路の活性化が非常に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。今回、さらに、このv-CrkによるP13K/AKT経路の活性化機構の解析を進めたところ、v-CrkによりFocal Adhesion Kinase (FAK)のチロシン残基のリン酸化が誘導され、その部位にP13KP85が会合することが、その後のP13K/AKT経路の活性化において必須であることが分かった。このv-CrkによるFAKのチロシンリン酸化の誘導はSrc-family tyrosine kinaseのnegative regulatorであるCskの過剰発現によってほぼ完全に抑えられ、またv-Crkでトランスフォームした細胞ではc-Srcの活性化を示す416番目のチロシンのリン酸化が亢進していることより、Src-family tyrosine kinaseの活性化を介して起こっているものと考えられた。v-Crkの各種変異体を用いた実験より、このFAKならびにc-Srcのチロシンリン酸化の誘導においてはSH2ドメインが責任領域であることがわかったが、P13K/AKT経路の活性化にはSH2ドメインのみでは不十分でありSH3ドメインからシグナルも必要とされる。このSH3ドメインからのシグナルにはRas familyのsmall Gタンパクが関わっていることを示唆するデータを得ており、現在、さらに検討を進めている。
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