我々は、これまでに、トリ肉腫ウイルスCT10の癌遺伝子産物であるアダプタータンパクv-Crkによる細胞癌化においてPI3K/AKT経路の活性化が非常に重要な役割を果たしていることを明らかにしてきた。このv-CrkによるPI3K/AKT経路の活性化機構の解析を進め、昨年度までに、v-CrkがSrc-family tyrosine kinaseの活性化を引き起こし、これによりFocal Adhesion Kinase (FAK)の397番目のチロシン残基のリン酸化が誘導され、その部位にPI3Kp85が会合することが、その後のPI3K/AKT経路の活性化において必須であることを明らかにした。v-Crkの各種変異体を用いた実験より、このFAKならびにc-Srcのチロシンリン酸化の誘導においてはSH2ドメインが責任領域であることがわかったが、PI3K/AKT経路の活性化にはSH2ドメインのみでは不十分でありSH3ドメインからシグナルも必要とされることから、今年度は、このSH3ドメインの役割について解析を進め、v-CrkSH3ドメインに結合するmSOSを介したH-Rasの活性化と、それに続くPI3K p110への会合もPI3Kの完全な活性化に必須であることを明らかにした。これにより、v-CrkのSH2・SH3両ドメインが如何にして協調しながら細胞を癌化させるシグナルを生み出すのかを分子レベルで初めて明らかにすることができた。
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