我々はPI3キナーゼの最も主要な調節サブユニットであるP85α分子を欠失したマウスを作製し、P85αがB細胞の分化及び活性化に重要な働きをしていることを示してきた。P85αノックアウトマウスにおいてプロB細胞からプレB細胞への移行が抑制されていることは以前に示したが、これはプレBCR鎖遺伝子の再構成の阻害によるものなのか、あるいはプレBCR複合体からのシグナル伝達の異常によるものかは判別できなかった。しかしながら、今回P85αマウスと抗HEL抗体トランスジェニックマウスを交配し、既に再構成を済ませたBCRの分化においても抑制が観察されたことから、PI3キナーゼがプレBCR由来のシグナル伝達に重要な働きをしていることが明らかとなった。さらにP85α欠損マウスと抗HEL抗体トランスジェニック、膜結合型HEL(mHEL)トランスジェニックマウスとのトリプル変異マウスを作製した結果、HEL抗原による自己抗原反応性B細胞の除去(負の選択)にはPI3キナーゼは関わっていないことが示された。したがって、P85αはプロB細胞の正の選択には必要であるが負の選択には必要でないという意外な事実が明らかとなった。 また、このマウスのマクロファージの機能についても検討を加え、LPS刺激によるIFNγの産生およびNOの産生が著しく抑制されていること、また細胞内寄生細菌であるクラミジアに対し易感染性を示すことなどが明らかとなった。PI3キナーゼはB細胞の分化、活性化のみならずマクロファージを介した自然免疫系の制御にも関与していることが明らかとなり、細菌等の感染に対する生体防御機構において極めて重要な働きをしていることが示された。
|