PI3キナーゼ(PI3K)の最も主要な調節サブユニットであるp85α遺伝子を欠失したマウスがB細胞の分化及び活性化において重大な異常を示すことを、我々はこれまでに示してきた。本研究計画では、前年度にはPI3KがプレB細胞受容体シグナルに重要であること、およびマクロファージを介した自然免疫応答にも関与しているこを示した。今年度はB細胞のシグナル伝達におけるPI3Kの機能についての詳細な生化学的解析を行い、いくつかの興味深い知見を得た。B細胞受容体(BCR)刺激によるBtkの活性化はPI3Kに依存するとこれまで考えられていたが、PI3K欠損B細胞におけるBtkの活性化を検討したところ、全く抑制されていないという意外な結果が得られた。さらに、PI3Kの阻害剤によってもこれまで言われていたようなBtkの活性化および膜移行の阻害が起こらないことを、注意深い生化学的解析により明らかにした。また、BCR刺激依存性のNF-kBの活性化はPI3KとBtkの双方に依存することを明らかにした。さらにPI3K欠損マウスにbclxLを強制発現させることによりB細胞分化の異常が回復することを明らかにした。したがって、PI3K欠損によるB細胞の分化異常はBtk欠損の際と同様にNF-kBを介したbcl-xLの誘導不全で説明できるものと考えられた。PI3KとBtkのダブルノックアウトマウスはそれぞれの単独ノックアウトマウスより重篤なB細胞分化、活性化の異常を示した。以上のことから、BCRを介したシグナル伝達においてPI3KとBtkは単純な上下関係にないことがあらためて示され、両者が独立した異なる機能を持つことがわかった。
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