平成14年度の実績 前年度の動物実験は6日間の連続曝露であり肺胞細胞に炎症性の所見はみられたが、肺組織には明らかな病変はみられなかった。そこで曝露装置にラットを固定し、遊離ケイ酸添加い草染土を1週間に5回の頻度で10ヶ月間連続曝露した。曝露後ヘマトキシリン・エオジン染色した肺組織標本を観察すると、肺中枢側の気管支周囲に肺胞上皮の腫大やリンパ装置内に活性化マクロファージ、そして巨細胞性肉芽腫様組織が観察された。この変化は遊離ケイ酸含有量に依存していた。つぎに、畳表製織現場におもむき現場調査をおこなった。畳表に抗菌性を持たせるため、いくつかの畳表製織作業場では燃焼イオウガスによる製織用い草の燻蒸がおこなわれていた。二酸化イオウは、空気中浮遊粉じんとの相互作用で呼吸器障害を引き起こすことが知られている。畳表製織作業場で採取した染土粉じん中の遊離ケイ酸濃度は10数パーセントであった。また染土中の鉱物種のX線解折の結果ではアルファ石英(SiO_2)が多くみられた。 以上の結果から、い草じん肺の主原因は、浮遊性染土粉じんに由来するとおもわれる。い草じん肺症の発症メカニズムを詳細に観察すると、染土中遊離ケイ酸、硫酸根の付着した浮遊性染土粉じん、さらに保存い草や農作業環境に繁殖する真菌類、そしてい草の植物成分をじん肺発症の修飾因子として数えることができた。このような影響因子を考慮すると、い草じん肺症の防止策として、(1)い草染土を使用しない畳表製造法の開発、(2)効果的な局所排気装置の設置、(3)保護具による個人防護の徹底などが考えられた。
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