曝露装置にラットを固定し、遊離ケイ酸添加い草染土を曝露した。6日間連続曝露後、ラット肺泡液を染色検鏡したところ、遊離ケイ酸含有率に応じて活性化マクロファージ数や好中球数が増加していた。同様に長期間10ヶ月曝露後、ヘマトキシリン・エオジン染色した肺組織標本を観察すると、肺中枢側の気管支周囲に肺胞上皮の腫大や活性化マクロファージが観察された。 疫学調査としてい草栽培ならびに畳表製織現場を調査した。い草苗の植付作業は冬期の低温作業であり、湿田での手植は機械化による改善が必要である。夏季の炎天下での収穫作業はハーベスタによる機械化が普及しているが、高温環境での熱中症予防対策が必要である。収穫い草を泥染したのち、乾燥い草を乾燥機から取り出すとき作業者は高濃度の粉塵に曝露されている。粉塵の吸入を防ぐため、発塵防止対策と個人防護のマスク着用の徹底が必要である。採取した粉塵中遊離ケイ酸濃度は13.4パーセントであった。染土鉱物種のX線回折の結果、石英、緑泥岩、長石、イライト-黒雲母、蛇紋岩、角閃石族がみられた。 動物実験や現場調査の結果、い草染土じん肺の主原因は浮遊性染土粉じんの肺への吸入によるものであると考えた。さらにい草染土じん肺の発症メカニズムや修飾因子の観点から、主体的原因は染土や染土に含有される遊離ケイ酸であるが、い草じん肺の重症化の修飾因子として、硫酸根の付着した浮遊性染土粉じん、保存い草などに繁殖する真菌類、そしてい草の植物成分等を数えることができた。以上の点から、い草染土じん肺の防止対策としては、(1)染土を使用しない畳表の製造法の開発、(2)効果的な局所排気装置の設置、(3)保護具による個人防護の徹底などが考えられた。
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