研究概要 |
今年度は有機スズ化合物の神経毒性を調べる初年度であったが、神経毒性の評価は、脳内に存在するNMDAレセプター(NMDARと略記)に対するリガンド結合法によって行うこととした。すなわち、有機スズ化合物(TBTClを使用)によってNMDARに対するリガンドの結合が亢進あるいは阻害されれば神経毒性が示唆されるという考え方である。In vitroの実験では、無処置対照マウスの大脳から調製した膜画分を用いてNMDARに対するTBTClの影響を調べた。使用した放射性リガンドは[^3H]MK-801と[^3H]CGP39653であり、NMDARの異なる部位に結合することが知られている。結合実験の結果TBTClは50-2000μMで[^3H]MK-801の結合を阻害した。しかし[^3H]CGP39653の結合はTBTClの濃度を1000μMまで増大したが影響は認められなかった。In vivoの実験では、1,5,25および125ppm濃度のTBTClを含む固形飼料をマウスに4週間与え、大脳内のNMDARに及ぼす影響を検討した。[^3H]MK-801の結合は5ppmと125ppm投与群で、[^3H]CGP39653の結合は1ppmと125ppm投与群で対照群と比べて有意(p<.05)に低下した。この結果は少なくとも125ppm濃度のTBTCl、4週間投与はNMDARに影響を及ぼすことが示唆された。NMDARは生理的には、学習や記憶に関与するレセプターであり、TBTClの神経系への影響が示唆される。
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