研究概要 |
船舶や漁網の防汚剤として、塗料に含まれる有機スズ(トリブチル(TBT),トリフェニル(TBT)化合物は内分泌撹乱物質、いわゆる環境ホルモンの一つとして、現在、その毒性が問題となっている。わが国ではTBT化合物は現在、船舶塗料としての使用が禁止されたが、国際的にはいまだ全面的に禁止されていないこともあり、高濃度の海洋汚染が報告されている。有機スズ化合物の主な毒性に、中枢神経毒性、免疫毒性があるが、今回は神経組織に存在するN-methyl-D-aspartateレセプターに及ぼすトリブチルスズ(TBT)の影響を動物実験により検討した。その結果125ppmのTBTを含む食餌を3週間投与したマウスの脳内NMDAレセプターにおいて、対照群に比べて特異リガンドの結合活性が低下するという成績が得られた。すなわち、TBTが脳内のこれら受容体の活性に影響を及ぼしている可能性が示唆された。NMDAレセプターは学習や記憶あるいは行動に関与する、生理的にも重要なレセプターであり、今回得られた知見は有機スズ化合物の、中枢神経毒性を知るうえで極めて重要であると考えられる。しかし5ppmや25ppm投与群では必ずしも影響が明瞭ではなかったことから、今後TBTの低濃度長期間曝露の神経系に及ぼす影響や母体曝露の胎児に及ぼす影響、いわゆる発達神経毒性などについてもさらに検討する必要があろう。
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