13年度および14年度研究を通し、有機リン化合物の遅発性神経毒性に対するラット発症モデルを開発に着手し、合成樹脂産業で可塑剤や抗酸化剤として利用されている亜リン酸トリフェニルを用い、体重当たり500mgの化合物を隔日計3回経皮投与することにより確実に神経障害を発症させることに成功してきた。このモデルを用い、ニワトリでみられた感受性の年齢差はラットでは認められないことを示した。また、in vivoにおいて神経組織中ミトコンドリアのコハク酸脱水素酵素活性が特異的に低下することを観察した。 15年度研究では、前年度に引き続き生化学的観察を行うとともに電顕的観察を実施した。電顕的観察では、亜リン酸トリフェニル投与により、ラットの脊髄前角の神経細胞体の核でのクロマチンの溶解および核周囲への放射状配列、ニッスル小体の一部消失、細胞質の細網状変性、ミトコンドリアの空胞変性などが観察された。これらの変化は化合物投与後比較的短い期間で発現していた。これらのことから神経細胞に変化を認めないトリ・トリルリン酸やミパフォックスに見られる遅発性神経障害作用とは異なり、亜リン酸トリフェニルは脊髄前角の運動神経細胞を直接標的にしており、核や細胞小器官の破壊によって細胞内代謝を阻害した結果、前角細胞の細胞死を引き起こすと考えられた。また、亜リン酸トリフェニルはミトコンドリアの各種酵素の中で、コハク酸脱水素酵素のみの活性を低下させることから、この酵素活性低下は、ミトコンドリアの空胞変性の結果ではなく、変性を引き起こすメカニズムの一部を構成するものと推測された。
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