研究概要 |
今年度の研究計画は、リンパ球中のゲノムDNA損傷を電気泳動で検出するシステムを確立することであった。まず、末梢血液中から採取したリンパ球からDNAを抽出し、ゲノム上の主に8-oxo-7,8-dihydrodeoxyguanosine (8-oxodG)などのグアニンの酸化的DNA損傷部位を切断するformamidopyrimidine glycosylase (FPG protein)により切断の形に変え、そのDNAフラグメントの電気泳動後の画像解析により、酸化損傷部位をFPG protein sensitive siteとして定量するための泳動条件を検討した。今回用いたDNA抽出方法では50,000kb前後のDNAフラグメントが得られるため、ATTO社のジェノフィールドを用いて166,000kb-300kbのDNAフラグメントを分離する条件を検討した。 その結果、一次回帰式がY=-0.00891 X+5.34に相当するキャリブレーションカーブを描く泳動条件が得られた。この泳動条件を用い、実際に末梢血リンパ球のゲノムDNAを抽出し、FPG protein処理なし、処理ありの両方の条件で処理したDNAサンプルを同時に泳動した。得られたDNA泳動像をATTO社製のlane analyzerにて解析し、平均分子長を求めた。酵素処理したDNAの平均分子長の逆数から酵素処理無しDNAの平均分子長の逆数を引き算することで、DNA上の切断数、すなわち損傷の数(FPG protein sensitive site)を定量した。10^5塩基あたり1.57個のFPG protein sensitive siteが結果として得られた。これはHPLC-ECDを用いて8-oxodGを定量した場合の通常の値より一桁高い値であった。FPG proteinは8-oxodG以外の酸化損傷も認識し、切断するため、HPLC-ECDにより定量された8-oxodGよりも高い損傷量が定量されたということも考えられるが、今回用いたDNA抽出法の過程で人工的な酸化損傷を誘発した可能性もある。今後、DNA抽出時に抗酸化剤を添加する、他の抽出法を試みるなど改良を重ね、さらにHPLC-ECD法との定量の比較も行い、疫学研究に応用可能か検討する必要がある。
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