ダイオキシンは様々な毒性を持っているが特にその発がん性に関しては非常に恐れられている。一方、酸化ストレスが発がん性に強く関連していることは近年広く認められてきている。そこで、酸化ストレスがダイオキシン曝露労働者に過剰に誘発されるか否かを調べることはダイオキシンによる発がんを予防する上でも非常に重要となる。本研究の目的は、酸化ストレスレベルを測定しダイオキシンに曝露されている労働者の発がんリスクを評価する方法を確立することである。この課題を達成するためには、ダイオキシン曝露量及び酸化ストレスレベルを適切に評価し、それらを疫学研究に適応できることを確認しなければならない。 1)清掃工場労働者のダイオキシン曝露代替指標の確立:調査対象となる工場の概要からどのような作業が焼却飛灰に曝露する可能性が高いかをあらかじめ調べておき、そのうえで作業歴調査を実施した。その際、炉内及び電気集塵器内の作業、飛灰の固化作業などの業務経験、期間及びそこでの飛灰曝露の程度を詳細に聴取した。その結果より焼却飛灰への曝露の可能性及びその程度を推定すると共に従事した月数を算出した。調査労働者をそれぞれ焼却飛灰長期暴露群、短期曝露群、曝露なし群に分類し、各群の一部の人より血液を採取し血中ダイオキシン濃度を測定した。この職歴から評価した焼却飛灰曝露指標と血中ダイオキシン濃度との関連を検討した結果、焼却飛灰への曝露の月数が多い労働者ほど血中のダイオキシン濃度が高い傾向にあることを見出した。このように焼却飛灰曝露期間が血中ダイオキシン濃度と相関があったということにより、本研究で行った職歴調査による評価方法をダイオキシン曝露の代替評価法として利用することが可能であるということが証明できた。 2)酸化ストレス状態評価法の確立:リンパ球中ゲノムDNAの酸化的損傷を電気泳動で検出するシステムを確立した。また、尿中酸化的DNA損傷物質のELISA法を用いた簡易測定法の妥当性検討を行い、高度な技術及び機器がなくても定量良好な測定ができることを検証し広く疫学研究に使用できることを示した。また、標的物質の被検者における再現性を検討し、それが良好であることから被検者の代表値として活用できることを示した。 3)清掃工場で働く労働者集団において数種類の酸化ストレス指標を用いて解析したところ尿中の8-OHdG測定値は焼却飛灰へ曝露する可能性の高い作業に従事する期間が長くなるに伴い増加する傾向が有意であった。焼却飛灰への曝露が体内で酸化ストレスを誘発している可能性が示唆された。
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