[背景]われわれの調査では、肺がん患者の累積発生数は、組織型、男女差、喫煙の有無に関係なくほぼ55歳から直線的に増加したが、西日本ではNO2が1ppb上昇し気温が1℃上昇すると、男性肺癌死亡率が人口10万対1.9人増加した。一方、吸入タバコ温度は吸入初期に外気温の影響を著明に受け、喫煙者における肺腺癌の発生部位はほとんど気管支に限局していた。このように、気温と肺癌発生の関係が強く示唆された。 [目的]熊本、福岡、岡山、札幌在住の健康成人男子の末梢血リンパ球中benzo [a] pyrendiolepoxide (BPDE)-DNA付加体量に関する疫学調査をする。 [結果]in vitro実験で、リンパ球を38℃で培養するとBPDE-DNA付加体量は正規分布を示す(A型)が、40℃では平坦な分布になった(B型)。さらにBPDEに接触させるとアポトーシスに陥る細胞が認められた。札幌では全例A型であったが、九州ではB型が主体であった。平均BPDE-DNA付加体量は各都市間で差がなかったが、陽性細胞の割合および総付加体量に有意な地域間格差がみられ、特に札幌で陽性細胞の割合が高かった(p<0.001)。 [結論]BPDE-DNA付加体に関する疫学調査が可能であった。BPDE-DNA付加体の形成には気温が関係し、また、閾値を超えた細胞は死滅するが、癌化の過程ではこの機構が破綻するものと堆定された。
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