自殺高率地域である秋田県合川町、中仙町、東由利町の60歳以上の高齢者を対象に、精神的健康状態の評価を含む包括的な質問紙調査を実施した。合川町の調査では2377名、中仙町では2800名、東由利町では1115名の高齢者から回答が得られた。質問紙の内容は基本属性の他、Zungの抑うつ尺度、家族支援、社会的支援、ストレス対処行動、自殺に対する意識・医療資源へのアクセス度などであった。Zungの抑うつ尺度得点の平均値は合川町39.97点、中仙町41.00点、東由利町点39.53点であった。また、抑うつ尺度得点が60点以上の者の割合は合川町0.7%、中仙町1.9%、東由利町1.1%であった。東由利町町では中年者(30-59歳)についても調査を行った。中年者の抑うつ得点が高齢者よりも有意に高く、社会経済的要因の影響が示唆された。地理情報システムを用いた地区ごとで抑うつ得点高値の者の割合(抑うつ得点50点以上の者)を分析したところ、地区ごとのうつ的症状の有症率には差違が認められ、しかもその有症率は高齢者世帯割合の分布と相関を認めた。地理情報システムを用いた小地区ごとの地域診断手法は自殺予防対策の実施の優先順位を決定するのに役立つものと考えられた。中仙町で行ったインデプスインタビューでは、自殺予防対策担当者がエンパワメントされ、住民の「自殺」に対する受容に変化が認められた。藤里町では、民間ボランティアの活動支援と地区ごとの出前研修会を夜間に行うという啓発活動により、中年者への健康教育への参加が促進された。地域参加型自殺予防対策の介入効果はあったと評価できた。最後に、欧米と我が国の自殺予防対策の国際比較を行い、政策パッケージとしての自殺予防対策を抽出できた。 研究全体を総括すると、包括的な地域参加型自殺予防対策は有用であるとの結論が得られた。
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