わが国の中で大阪都市圏は結核罹患率が最も高い状況にある。本研究は、発生する結核患者間のつながりを結核菌を使った分子疫学的手法により解明し、感染経路、感染の場を明らかとすることを目的とする。研究にあたっては、結核の患者情報を有する保健所、結核の菌株を保有する医療機関、分子疫学的検査をする検査機関の間の研究を進めるための協力体制を構築する必要がある。本年度は、一つには大阪都市圏の結核新登録患者について、中心都心部、大阪湾岸部、大阪市隣接部、大阪都市圏郊外の各地域に分け、発生している患者の、職業や雇用形態などの社会的な属性を調査し、患者が相互に関連しているのかについて記述疫学的な検討を行った。2つには地域ベースの結核菌の分子疫学的研究を大阪市と堺市域におけるすすめるための研究体制を確立した。 一つ目の大阪都市圏の結核新登録患者の分析を、この圏内の結核新登録患者を地理的に3群に分類して分析を行った。A群の地域は大阪市の特定区(西成)、B群の地域はその他の大阪市内の浪速、中央、大正、西淀川、隣接地域の東大阪市西、堺市北、C群は郊外の枚方、寝屋川、藤井寺、茨木、池田、泉大津、西宮地域である。分析対象者は、A群682人、B群856人、C群819人、計2357人であった。その結果、性別にはA群で男性の割合が高かった。年齢階級別にはいずれの群でも40〜60歳の者の割合が高かった。医療保険種別にはA群は生活保護、B群は国保、C群は健保・退職の割合が高かった。職業区分別にはいずれの群も無職の者の割合が最も高かった。C群で常用勤務者等の割合が最も高かった。居住年数別は、C群で1年以上の居住者の割合が高かった。住居形態別にはA群で野宿や不明等、B、C群で自家の者の割合が高かった。家族形態別にはA群は単身の者、B、C群でその他の家族形態の者の割合が高かった。すべての項目について3群間に有意差がみられた。不安定就労・不安定生活者が都市圏の特定地域に集積している傾向にあることが示唆された。次年度からこの罹患率が高い要因ならびに高罹患率が維持されている要因を結核患者の菌株を用いた分子疫学的手法により解明する。
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