研究概要 |
大阪都市圏の結核罹患率の分布は中心部から周辺部にかけて罹患率が低くなる。都心部の限定された地域の罹患率はその周辺部とは連続性を欠く著しく高い状況にある。都心部の高罹患地域の結核患者の特徴は日雇い労働者、野宿生活者等の不安定生活者であった。結核の高罹患地域が生じるメカニズムとして次の2点が考えられた。一つには、患者の集積要因である。つまり、日雇い労働者等の大都市圏内の不安定生活者は結核等の傷病を有すると特定地域に集積してくることによる。二つには日雇い等の不安定生活者は検診受診及び受療機会が乏しく、発見までに周囲の感染源となる者が多く、結核対策が十分に機能していない状況にある(結核対策要因)。これまでにこれらの仮説を立証するための調査を行ってきた。本年度は、2つのことを行った。一つは、野宿生活者に対する結核検診を行い結核の集積状況を調べた。野宿生活者1,547人の調査及び胸部レントゲン検査からは、要治療者25人(1.6%)、既往者・登録中者73人(4.7%)、結核有所見者376人(24,3%)であり、患者が集積していることを実証することが出来た。2つにはこの地域の結核患者の結核菌株を分析し、結核患者の間の感染の関連を検討した。結核の菌株分析については、調査の同意が得られた都市部のA市と、地方部のB市の2か所の排菌患者についてRFLP分析を行った。A市とB市の排菌患者の被験株の患者年齢分布には違いあったが、結核菌株のクラスター形成率は両市とも約30%であり相違は見られなかった。また、遺伝的に類似性が非常に高い菌株が両市に共通して大きなクラスターを形成していた。都市部であるA市では市内全体で中年層を中心とした感染が起こっていること、B市では患者住所地域内で高齢者を中心に感染が起こっていることが示唆された。また、A市とB市に共通して、遺伝的に高度に類似した菌株が12〜13%存在したが、これらの菌株が両市の罹患率の高さに関与しているか否かについてさらに調査を行うことが必要である。
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