大阪府の全ての公立小学校児童を対象とした自覚症状調査「大阪府こどもの健康調査」の平成3年から平成12年までの5回の調査結果を用いて、この10年間に実施された小学校の新改築工事が児童の健康に影響を及ぼしたかどうかを、横断的および時系列的に解析した。まず、各調査結果について、児童の自覚症状有訴率と環境要因との関連をロジスティック回帰分析で検討したところ、教室の新改築工事はいずれの症状とも有意な関連がみられなかった。次に、連続した2回の健康調査の間に教室の増改築工事が行われた学校について、工事前後の有訴率の推移をみたが、全体的に府平均有訴率の推移と異なる傾向はみられなかった。小学校で行われた工事の多くは、学校の部分的な改築であったため、工事箇所に室内空気汚染が生じたとしても、全校単位の有訴率に影響するほどではなかったと推察された。 一方、平成13年度夏期に一部の教室が新改築された4小学校において、工事直後から2年後までに5回、室内空気汚染物質濃度を測定した。普通教室では、ホルムアルデヒドは工事直後から非改築教室と同レベルの低値であった。トルエンとキシレンは、工事直後に一部の教室で室内濃度指針値を上回ったが、1ヵ月後には低下した。しかしコンピュータ教室では、工事から1年後と2年後の夏にも指針値を超えるホルムアルデヒドが検出された。図書室と音楽室でも指針値に近いレベルのホルムアルデヒドが検出された。これらの特別教室では普通教室に比べて換気が少ないため、ホルムアルデヒドは約2年を経過しても残留しており、夏期に放散することが示された。改築教室の児童に工事前と工事1か月後に実施した自覚症状調査では、5・6年生で眼や喉の刺激症状、だるい、めまい等の有訴率が、工事前に比べ工事後にやや増加した。保健室を訪れるほどの者はいなかった。
|