職場における分煙化の進展が喫煙行動の変容に及ぼす影響について明らかにするため、異なる喫煙対策を導入している職場間や対策導入時期の異なる職場間で喫煙行動(喫煙割合、喫煙本数、タバコ依存度)を縦断的および断面的に比較した。 喫煙対策導入時期が異なる4つの事業所で喫煙者を3年間、継続して観察したところ、いずれの事業所でも喫煙割合の減少はごくわずかであった。しかしこの期間中に新たに分煙を導入した事業所では、大量喫煙者(1日25本以上)の割合が減少する傾向を認めた。これは初年度に多量喫煙者であった人の一部が対策導入後に喫煙本数を減らしたこととに加え、中等量の喫煙者の多くが喫煙本数を増やさなかったことによる。一方、以前より分煙に取り組んでいた事業所では、観察期間中での喫煙割合や大量喫煙者の減少はみられなかったものの、分煙度が高いほど、喫煙行動には抑制傾向がみられた。 大規模事業所での断面的調査では、喫煙場所の設置場所により喫煙対策を3段階に分類し比較したが、群間で喫煙者割合・喫煙本数に差を認めなかった。しかし対策の遵守状況や受動喫煙への曝露状況で群分けしてみると、対策がよく守られている場合は守られてない場合に比べ、また受動喫煙が1日1時間未満の職場にいる喫煙者は受動喫煙が1時間を超える職場にいる喫煙者に比べ、いずれも職場での喫煙本数やタバコ依存度が有意に低かった。 以上の結果より、職場で分煙対策を進め受動喫煙をなくすことは、喫煙本数やタバコ依存度を減少させるといった喫煙行動の変容に影響を与えていることが示唆された。しかしこれらは対策導入後に短期的に観察される現象であるかもしれない。今回の結果は一方で、分煙のみでは喫煙率を減少させることは困難であることも示している。今後の研究には、職場での禁煙支援環境の形成を目指した包括的な喫煙対策プログラムを実施し、その効果を縦断的に評価することが求められよう。
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