幼稚園、小学校で流行するウイルス感染症の早期診断法の確立と感染防止法の確立を目的として本研究を行っている。2001年2月から5月にかけて、特定のプールを利用している小児に咽頭結膜熱が多発した。症例は2000年1月から4月までの3ヶ月間に咽頭結膜熱が疑われた患者のうち、アデノウイルス抗原が検出されたのは37例で、そのうち24例についてわれわれが開発したPCR法により短期間で原因ウイルスがアデノウイルス4型によることを明らかにした。直ちに患者が利用していたプール水の遊離塩素濃度を測定したところ0.1mg/lと低く、このことが多発した要因と考えられた。そこで遊離塩素濃度を0.7mg/lに是正するように行政を通じ指導したところ、患者発生が終息した。咽頭結膜熱の診断を短時間に行うことにより原因ウイルスが明らかとなり、直ちに感染防止が行うことができた。引き続き、兵庫県内の学童が利用するプール水50件からアデノウイルスの検出を試みたが、検出できなかった。このことはわれわれが行政を通じプール水の塩素濃度の保持を指導した効果といえる。またその後プール水を介しての咽頭結膜炎の発生は殆ど見られなかった。 エンテロウイルス71型(EV-71)による手足口病の流行があり、2歳の幼児が脳症を併発して死亡例がみられた。中枢神経系疾患を併発した患者と同時期に中枢神経系疾患を共ない患者からのEV-71について比較検討を行った。中枢神経系疾患を伴わない患者からはEV-71がVero細胞で容易に分離された。しかし中枢神経系を併発した患者からは分離されにくく、両者に細胞感受性の違いが見られた。さらにEV-71のVP4領域の遺伝子解析結果、中枢神経系疾患を併発した患者から分離された株は病原性の強いタイプのEV-71であることが示され、ウイルスの遺伝子解析により毒性の強弱を推測することが可能となることを明らかにしている。
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