研究概要 |
死体硬直の筋肉による違いについて研究を進め,ラットを用いた実験において,次のことが新たに明らかになりつつある. (1)温度を一定に保った流動パラフィン内で,ラットより切り出した筋肉(腓腹筋赤筋部および白筋部,ヒラメ筋,長指伸筋,脊柱起立筋)を,1分に1回,5秒ずつわずかに伸展させ,このとき筋肉を通して伝導される力をセンサーで感知し経時的な変化を測定することにより,筋肉のstiffnessの死後変化を測定した.37℃では赤筋では白筋よりも速くstiffness(硬さ)および張力が上昇した.25℃では,ヒラメ筋を除いて同様な傾向にあった. (2)ラットの筋肉を切り出し,試料管内の流動パラフィンに入れ,^<31>P-NMR(核磁気共鳴装置)にて,温度を一定に保ったまま,ATP・クレアチンリン酸等,リン酸化合物濃度およびpHの死後変化を持続的に測定したところ,25℃では,赤筋では白筋よりも速くATPおよびクレアチンリン酸の全リンに対する比が減少した.37℃では,全体的に変化が速く,有意な差がみられなかった. (3)上記(1)(2)は,いずれも37℃のほうが25℃よりも速く変化が進行した. これより,以前計測した張力(単独で測定)の結果とあわせて,赤筋においては一般に死後のATPの減少が速く,stffnessおよび張力の上昇が速いことが示された. 赤筋で死体硬直が速く進行することより,赤筋線維の面積比が大きいと考えられる咀嚼筋においても死体硬直が速く進行し,顎関節が速く固定される可能性が示唆された. その他にも,温度が強く影響することから,死後の冷却の速い四肢抹消においては硬直の進行が遅い可能性が考えられた.
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