研究概要 |
本年度は,昨年度に続き,死体硬直の筋肉による違いについて研究を進め,ラットを用いた実験を行った. ラットの筋肉(腓腹筋赤筋部および白筋部,ヒラメ筋,長指伸筋,脊柱起立筋)を切り出し,試料管内の流動パラフィンに入れ,31P-NMR(核磁気共鳴装置)にて,温度を一定に保ったまま,ATP・クレアチンリン酸等,リン酸化合物濃度およびpHの死後変化を持続的に測定したところ,25℃では,赤筋では白筋よりも速くATPおよびクレアチンリン酸の全リンに対する比が減少した.37℃では,全体的に変化が速く,有意な差がみられなかった. 昨年度の研究においては,温度を一定に保った流動パラフィン内で,ラットより切り出した筋肉を,1分に1回,5秒ずつわずかに伸展させ,このとき筋肉を通して伝導される力をセンサーで感知し経時的な変化を測定することにより,筋肉のstiffnessの死後変化を測定した.その結果,37℃では赤筋では白筋よりも速くstiffness(硬さ)および張力が上昇した.25℃では,ヒラメ筋を除いて同様な傾向にあった. これらの結果をあわせて,力学的にも生化学的にも赤筋で死体硬直が速く進行することが明らかとなった.特殊な赤筋線維を持ち,赤筋線維の面積比が大きいと考えられるヒトの咀嚼筋においても死体硬直が速く進行し,顎関節の硬直が速く進行することが示唆された.また,死後の冷却の速い四肢末梢においては,硬直の進行が遅い可能性が考えられた.
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